【LAS人】こんなアスカは大好きだ!11【専用】
『季節はずれの、転校生』
季節はずれの、転校生|こころ、夕日のように|Entschuldigen,sie
- 778 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 01:20:34 ID:???
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今日、世界が終わる夢を観た…。いや、詳しく言うと終わってない。僕ともう一人、同じ年くらいの女の子だけが生き残った。左目と右腕に痛々しく巻かれた包帯…うぅ、思い出すだけで頭が痛い。
朝ごはんの支度しなくなちゃ。
今年の梅雨は少し遅いらしい。このニュースを聞くのはもう2回目だ。
「おはぁよ…」
同居人のお目覚めだ。
母さんが死に、父さんが海外へ転勤になり、遠縁にあたるミサトさんに引き取られることになったのはちょうど3ヵ月前のことだ。
「あ、おダシ変えた〜?」
この人は普段鈍感なくせに味噌汁にはうるさい。
「えぇ、白味噌をちょっと混ぜてみました」
「おいしい♪おいしい♪」
親戚同士で僕の処遇をどうするか話し合った時、みんなが拒む中ミサトさんは一人手を挙げてくれた話しを聞いた時はとても嬉しかったけど、ただ家の事してくれるお手伝いさんがほしかったんじゃないかなと思う今日この頃。
でもこの人のおかげで今の僕がいるんだ、感謝しなきゃ。
- 779 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 01:21:52 ID:???
-
学校へ行ってみると、もうすぐ夏休みだというのに転校生がやってきた。
「惣流・アスカ・ラングレーよ」と、腰に手を置いて話す姿を一目見ただけでも自我の強さが覗える。
空いていた隣の席に座ると彼女は僕の方をジロジロと見てきた。というよりチェックしてきた。
「よ、よろしく…ランゲージさん」
「ラングレーよ!バカ!はぁ〜、なんで日本の男子ってこうも冴えないやつばっかなのかしら」
名前を間違えたとはいえ挨拶しただけで罵られたのは初めてだ。
そのあとしれっとした顔で「アスカでいいわよ…」と小さく呟いたけど。
なんなんだこの女。
でも、夢に出てきた子に少し似てる…?
昼休みいつものようにトウジ達とごはんを食べる準備をしていたら転校生が目に入った。
眉を立て、強気なところを見せているけど僕には分かる。
僕も3ヵ月前同じ思いをしたから…。
「あ、あの、一緒にどう?こっちは男3人だけど」
「はぁ?あんたバカァ?なんでこの私がムッさい男共と一緒にランチしなきゃいけないのよ」
同情心丸出しの顔がカンにさわったのかな…。
その後すぐに学級委員長の洞木さんが誘ってくれてるのを見て僕は少し安心した。
「それにしても惣流の奴、いけすかんのう」
「全くだよ。クォーターっていっても、7割日本人、残りの3割はドイツ人の骨格が性格に反映されてるんだよ」
妙に的を獲ているケンスケの見解に思わず納得。
「センセはどうや?」
どうって何が?もしかしてあの転校生のこと?
「碇は尻に敷かれるタイプの方が合うかもな〜」
勘弁してよ、あんな傲慢女。
- 780 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 02:30:52 ID:???
- 転校生がやってきて一週間が過ぎたある日のこと…
その日、下校途中の僕は宿題のプリントを机の中に忘れてしまい、めんどくさいなと思いながらも学校へと引き返した。
おかげで嫌なものを見てしまった…
惣流のクツ箱に書かれた落書きの数々。
『死ね!』『消えろ!』『ドイツ帰れ!』『調子乗んな!』
もちろん、僕に向けられた言葉じゃない。けどすごい嫌な気分になった。
自業自得だよ…。そう片付けてしまいたい自分にも嫌気がさした。
次の日の朝、思いっきりクツ箱で転校生と鉢合わせた。
僕の方を見ると表情一つ変えずにクツ箱を閉めた。その場にいる誰もが手を止めるほどの音を発てて…
教室に入ると転校生は顔を机に伏せるようにしていた。
隣の席に座るだけで強烈な罪悪感を感じる。
なんだよ、僕が悪いわけじゃないの…なんで僕がこんな思いしなきゃならないんだよ
僕はただただ隣の席を見ないようにしてやり過ごすしかできなかった。
放課後、当直日誌を書き終えた僕は職員室から戻ると、教室で白いリボンをつけた3年の女子が転校生の机にカラーペンで落書きしているのを見てしまった。
「なに?あんた?」
そう言われてつい目線を反らす…僕はなんて臆病なヤツなんだ。
笑いながら教室を出て行く先輩達を見えなくなるまで見届けたあと、僕は転校生の机をぞうきんで拭いた。
『ヤリマン』『キチガイ』『男たらし』…見るに耐えない言葉ばかりだ。けど一生懸命拭いてもなかなか消えない。
『ガタッ』と物音がして入り口の方を見てみると転校生が立っていた。
相当焦った…
「ち、違うんだ!これ書いたの僕じゃないよ!僕は消そうとして、その…」
転校生は近づいてきて、僕の顔にぞうきんを思いっきり投げつけた。
「…あんたなんか大っ嫌い!!」
なんなんだ、この女…。
だから他人に干渉するのは嫌なんだ。
そう思いながらぞうきん臭い顔を石鹸でパシャッと洗い流した。
あんなやつ、もう知るもんか。
- 783 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 22:21:37 ID:???
- 「センセ、今日はごっつ機嫌悪いのう」
「そ、そんなことないよ…ただ」
「ただぁ?」
トウジ達がやけに探りを入れてくるので僕は二人に昨日の事を話した。
「そりゃアレや、3年の間宮って人やろ」
「知ってるの?」
「有名だからな」
「あの人らのバックにはなぁ、ごっつぅ恐ろしい男子の先輩共がついてるっていう話しやで」
「惣流もタチ悪いのに目つけられたなぁ」
大丈夫かなあの子…いや、知るもんか。もうどうでもいいだあんなヤツ。
「ま、出る釘は打たれるっちゅーことや。のう、ケンスケ」
「あ、あぁ…」
その時トウジとケンスケがアイコンタクトを交わしたように見えたのは気のせいだと思った。
東京は今日から本格的に梅雨入りしたらしい。
じめじめとした湿気が肌にへばりつく。それ以上に僕と転校生の席の間はじれっとしている。
「今日は三神さん休みなんでー…女子の日直は惣流さん、代わりにお願いします。碇くん、よろしく頼んだわよ」
「えー!イヤよ!こんなヤツと一緒にだなんて!」と、くるんだろうと予測していたけど彼女は何も言わずに承諾した。
ちぇ、なんでこうもついてないんだろう…。
- 784 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 22:27:58 ID:???
- 放課後…
僕と転校生は一言も交わさなかった。
彼女がしてくれた仕事は黒板を消してくれただけ。しかもチョークの粉が制服に付着しただけで壁に蹴りを入れる始末。
はぁ…今日何度目のため息だろう。
日誌を職員室に届ける間もきっちり5mの間隔をとってついてくるだけ。
クツ箱ではお互いにけん制しあったから僕はわざともたつくフリをして先に行くのを待った。
彼女が傘立てからお似合いの真っ赤な傘を取り出したのを見て僕はようやく靴を取り出す。
『バサッ』と傘を広げる音
スニーカーに履き替え、顔を上げた瞬間、蒼褪めた…
彼女の傘が刃物で八つ裂きにされていた。
ザーーーー
雨音が急に大きく聞こえた。
ひどい……けど僕にはどうすることもできない。同情すればまた怒るだろうし。そう自分に言い聞かせるので精一杯だった。
僕の傘には何もされていない…当たり前か。いっそのこと自分の傘を八つ裂きにされていればよかったって?
それは偽善だよ…。
わかってるんだ自分でも。彼女を助けてあげられないことを…それなら関わらない方がいいんだ。
母さんが生きてたらしかられるだろうな…。
横目に彼女を見るといつも角度のついてた眉は平行、いや少し上を向いていた。
僕は彼女を置いて外に出た。なんでだろう、傘を差してるのに雨が胸に突き刺さるようだ。
自分が悪いんじゃないか
逃げちゃダメだ…
その性格直せばいいんだよ
逃げちゃダメだ…
いつも強がってるじゃないか
逃げちゃダメだ…
逃げちゃダメだ!!
- 785 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 22:30:20 ID:???
-
僕は体を反転させ転校生の前に立ち傘を差し出した。
「はい…」
怒られると思った、殴られると思った、でも今こうしないと一生後悔するような気がした。
「……」
彼女がなかなか受け取らないので無理やり手に渡し、逃げるようにしてその場を走り去った。
バカだな…これであの子を救ったつもりか?ヒーロー気取りもいい加減にしろ。
雨がやけに身にしみる……明日学校行きたくないな。
へっくしょぃ!!
「シンジくん?シンジく〜ん?」
んん…体がダルい…。
ミサトさんに起こされるなんて初めての登校日以来だ.時計を見るまでもなくタイムオーバーだ。
「どうしたの〜?調子悪いの?」
「…はぃ」
「わかった、じゃあ学校に連絡しとくね〜」
こういう時ミサトさんが保護者でよかったなぁとつくづく思う。母さんだったらいろいろと余計な心配するんだろうな。
ダルさも手伝ってミサトさんが出掛けたあとすぐ眠りについた。
…………?
インターホンが鳴ってる。何だろう?勧誘かな。めんどくさいな…
とても動ける状態ではなかったけど何度もしつこく鳴らすのでしょうがなく玄関の扉を開けた。
て、転校生!?
- 787 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 23:41:10 ID:???
-
「え、あ、え?」
「これ!」
彼女はつんとした顔で昨日僕が貸した傘をつき出した。
「あ、あぁ…別に急がなくてよかったのに」
「こんな薄汚い傘いつまでも持っていたくないのよ!」
たぶん、これが惣流・アスカ・ラングレーという女の子なんだろう…
「ははは、確かに汚いよねこの傘…」
「ちょっとあんた家の人はいなのぉ!?」
と部屋を覗きながら訊いてきたので、僕は今の処遇を簡単に説明した。
「あんたバカァ!?カゼでもヒドイと死ぬのよ」
と云いズカズカと家の中へ入ってくる彼女。
勝手に冷蔵庫を開け、何の断りもなしに料理をしはじめた。
危なっかしい包丁さばきを毛布に包まりながら見学していた僕を見て「あんたは部屋で寝てなさい!」
と包丁を立てられたので本当に恐くなって部屋で寝ることにした。
- 788 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 23:43:02 ID:???
- 何で彼女がここにいるんだろう?何で家の住所知ってるんだろう?体がダルいと頭が全く回らない。
そんなこと考えてたらウトウトしてきたのも束の間、部屋のふすまを思いきり開ける音にばっちり目が覚めてしまった。
「あんたねぇ、どこの部屋にいるかぐらい教えなさいよ!」
「ご、ごめん」
彼女が持ってきたお盆の上にはお粥となぜか生卵…
「言っとくけど、これはあんたのためなんかじゃないわよ。私のためだからね」
何を言ってるのかよくわかんない…日本語まだヘタなのかなぁ。
「あんたに貸し作ったまま生きてると思うとムカムカすんのよね!」
と云い、お粥をのせたレンゲを乱暴に僕の口に持ってきた。
「い、いいよぉ!自分で食べるよ!」
「私が食べさせてあげるっていってんだからあんたは大人しく口開いとけばいいのよ!」
僕はいう通りに口をアーンした、
「まぬけな顔」
そう云われとても恥ずかしくなった…でもとても温かい気持ちにもなった。
ヒトに干渉したりされたりするのは苦手だけどやっぱり構ってほしい時もある。
「あ、ありがと…惣流さん」
「アスカでいいって言ってるでしょ」
「ありがと…アスカさん」
「ア・ス・カ!」
「は、はい!…ありがとう、アスカ」
そう呼ぶと少し頬を赤らめた。
「あ、あんたは何て言うのよ」
「碇…碇シンジ
「ふーん、それじゃバカシンジね」
今の僕には言い返す気力もなかった。
「アスカって、お母さんみたいだね…」
今度は顔が真っ赤になるのがわかった。
「…バ、バ、バカ!」
僕が笑うとアスカは本気で顔をつねってきた。そんなことをしていたらミサトさんのご帰宅だ。
「たっだいま〜♪シンちゃ〜ん、生きてる〜?」
その夜、意気投合したミサトさんとアスカは僕を置いてカラオケに行ってしまった…。
- 789 名前:季節はずれの、転校生 投稿日:2007/01/22(月) 23:44:45 ID:???
-
2日後…
回復した僕が学校に復帰すると先輩達によるアスカへの嫌がらせはなくなっていた。
そのかわりにトウジとケンスケの顔はアザだらけになっていた。
洞木さんに聞いた話しだとトウジとケンスケは先輩達にいじめへやめさせるため『ケジメ』をつけてもらったらしい。
そんな友人を僕はとても誇らしく感じた。
けど何も知らないアスカは自分を助けてくれた二人を「ジャージ」と「そばかす」なんて呼んでいるけど…。
- 802 名前:こころ、夕日のように 投稿日:2007/01/24(水) 19:47:34 ID:???
-
日曜日の夕方ほど憂鬱な時間はない。
土曜日をムダに過ごしてしまったことを悔やみ,再び始まる一週間のことを考えてはため息をつく…
せめて残りの時間くらいは有効に使おうとS‐DATに新曲をダビングしてた時のこと、
「シンジくんシンジくん!ちょっと来て!」
ミサトさんが部屋に入ってきて半強制的に河原に連れていかれた。
ま、いつものことだからいいけど。
- 806 名前:こころ、夕日のように 投稿日:2007/01/24(水) 20:13:23 ID:???
- >>802の次
目の前に広がるオレンジ色の景色。
ガタンゴトン、ガタンゴトン…と、時折通過する電車の音がとても心地良い。
夕日を見ているとどんな辛い過去より、どんな素敵な未来よりも、『現在』が愛しくなる。
それを教えてくれたのはこの人だ。
僕は初めてミサトさんと夕日を見た時のことを思い出していた…
- 803 名前:こころ、夕日のように 投稿日:2007/01/24(水) 19:49:16 ID:???
-
あれは僕がこの町にきて3日目のこと…
転校してきたばかりで中々周りと馴染めず学校に行くのが億劫になり、僕は部屋に籠った。
「ま、好きにしてちょうだい」とそっけない返事に、やっぱこの人も他人なんだと少し寂しくなった。
僕は2日間部屋で何もしないでダラダラと過ごし、廃人と化した。
夕方、ミサトさんが仕事から帰ってくると強引にベッドから引きずり出された。
「あんたこの2日間何してたの?」
「何って…別に何も」
目線を逸らしながら話す僕を見て、ミサトさんを腕を組み、厳しい口調で話し始める、
「学校に行かないのは構わないわ。でもね、行かないんだったら他に何かしなさい」
はじまったよ。
「何かって、何すればいいんですか?」
「それはあなたが見つけるの」
大人はいつもこうだ。肝心な事はいつもうやむやにする…いや、答えられないんだ。
ミサトさんに失望した僕は人をバカにしたような口調で呟いた、
「仕事でもしろっていうんですか。僕はまだ中学生ですよ」
「あんたね!そうやってずっと家に籠る気!?」
「ミサトさんは僕が邪魔なんでしょ。そうならそう言えばいいのに。出ていきますよ、僕」
「……」
答えることのできないミサトさんを見て僕の中の悪魔が追い討ちをかける、
「図星なんでしょ…図星だから何も言い返せないん」
バチンッ!
「構ってほしいだけじゃない!!」
……強烈な平手打ちがとんできた。
殴られた。初めて殴られた。親にも殴られたことないのに……でも、涙は出なかった。ミサトさんは…泣いていた。
なんで殴ったほうが泣いているんだよ…僕の心は、完全に死んでいた。
- 804 名前:こころ、夕日のように 投稿日:2007/01/24(水) 19:50:33 ID:???
-
次の日も僕は学校を休んだ…
何もしないで今日も一日が終わる。いいんだ、これでもいいんだ…僕がよければいいんだ…。
日が暮れ始めた頃、ミサトさんが部屋にやってきた、
「シンジくん、ちょっと来て」
僕は行きたくなかった…でも、今行かなかったら一生誰にも相手にされないかもしれない。
そう思うと、勝手に体が動いていた。
僕とミサトさんは河原に座り込み、じーっと夕日を眺めていた。そう、今日の様に…
その時も今も、ミサトさんが少しキレイに見えたのは夕焼けのせいだと思う。たぶん。
「…昨日ごめんね〜、痛かったでしょ、アレ(笑)」
…普通に話しかけてくれただけだのに、僕の目からは涙が零れていた。
僕は泣いた、たくさん泣いた。人目も憚らず泣いた。
ミサトさんは…ただただ黙って優しく頭を撫でてくれていた。
- 805 名前:こころ、夕日のように 投稿日:2007/01/24(水) 20:10:49 ID:???
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その日から僕は学校に行くようになり、トウジやケンスケ、そしてアスカと出会い現在に至る…
ミサトさんとはそれからお互いに干渉することなく、いい距離を保てていると思う。
「夕日を見てると思うのよねぇ…この世が終わる時って、たぶん…こんな気持ちになるのかなぁって」
そう寂しげに呟くミサトさんの隣で僕は「そうですね…」と小さく呟いた。
グ〜ッ
ミサトさんのおへそ辺りから何か音がした。
「お腹空いちゃった(笑)。帰ろっか」
「えぇ…」
もう少しだけこうしていたかったけど、腹を空かすと機嫌が悪くなるヒトだ。今の内に引き下がっておくか。
「あ〜、ハンバーグ食べたいなぁ♪」と媚びた目で僕の方を見てくるミサトさん。
「…いいですよ。作りますよ。和風とチーズどっちがいいですか?」
「チーズ☆」
よし、じゃあ僕は和風にしよう。
こんな日々が僕は好きだったりもする。
…ありがとう、ミサトさん。
そして、これかもよろしくお願いします。
すいません、これは完璧に板違いです。
エヴァ専用のFFスレわからずここに書き込んでしまいました。
>>789 のサイドストーリーだと思って読んでくれたら嬉しいです。
- 814 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 00:56:36 ID:???
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灰色の空、朱色に染まる海……ここはまさに『地獄』という言葉を形容するに相応しい場所だ。
波打ち際に放られた僕ともう一人…?
アスカ!やっぱアスカだったんだね!
僕はアスカの体を何度も揺すり、起こそうとしたが、彼女は目を覚ますどころか微動だにしてくれない。
…死んでる。
アスカ!アスカ!ねぇ起きてよ!僕を一人にしないでよ!アスカ!
「アスカッ!!」
……巨大スクリーンに映し出された外人カップルの激しい抱擁。感動的な音楽が流れ出し、今まさに
クライマックスというシーンなのに、観客は全員僕の方を向いていた。
あれ、何で映画館なんかにいるんだろう?
ふと横を見ると、アスカが顔を真っ赤にさせ鬼の形相で僕を睨んでいる。
あ、そうだ。今日はアスカと映画を観にきてたんだっけ。
寝ボケ覚ましにアスカの蹴りがとんでくる。僕の脳はわずか2秒で正常値に回復した。
うぅ…痛いよ、アスカ
- 815 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 00:58:12 ID:???
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「アスカ…怒ってる?よね…」
そう訊いても返事はない。怒ってる。大分怒っている。
でもここのとこ帰り道が一緒ってだけで毎日のように引きずり回されてる僕の身にもなってほしい。
家に帰ればミサトさんの夕飯を作らなければいけない。洗濯もしないといけない。期末試験の予習もある。
それでやっとテストが終わったと思ったら今度はどうでもいい外人のラブストーリーを延々2時間も観せられるハメに…
そりゃ誰でも眠くなるよ。
おまけにいつも別れ際には「あんたってホントつまんない男ね」と、一言。
「だったら誘わなきゃいいだろ」と、決して口には出せない自分が情けない…。
「で、どんな夢見てたの?」
「え?あぁ…」
「私が出てきたんだからさぞかし壮大なストーリーだったんでしょうね」
さっき見た夢のことはあまり思い出したくない。適当なウソでごまかしておこう。
「はぁ?何それ。リトルマーメイドと呼ばれたこの私が溺れるわけないじゃない」
何とか信じてもらえたみたいだったけど「学校で私の名前叫んだら殺すわよ」と、しっかり忠告もされた。
- 816 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 01:01:47 ID:???
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僕とアスカは商店街を抜け、住宅街の小さな公園へとやってきた。
いつもこの公園でブランコに座り日が暮れるまで付き合わされる。
…はたから見たら僕らはどう思われているんだろう?
デート?それとも単なる付き合い?…事情を知らない人が見たらやっぱデートだよなぁ。
アスカの事は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど僕の好きな女の子のタイプはもっと優しくて大人しい子だ…そう、分かり易く言えばアスカと全く正反対の子。
そんな僕の心の中を透視したのか、アスカはふと呟いた、
「シンジ…つまんないだけど」
僕に面白くしろってこと?えーと、何か話題、話題、話題…
「ア、アスカって夢とかあるの?」
自分でも思ってもみない質問をしてしまった。
「…お姫様になること」
そしたら想像もしてない答えが返ってきた。けど、僕は素直にこう思った、
「…アスカなら、なれるような気がするよ」
僕がそう云うと、アスカはブランコを漕ぎはじめた。
「…あんたは?あんたは夢とかあるの?」
「僕?」
「ま、どうせつまらない夢なんでしょうけど」
その通りだ。僕の夢はつまらない。だから人に訊かれても今まで適当に受け流していた。
けど、アスカになら話してもいいかも…
「…僕は、普通に生きていければいいんだ…普通に生きて、普通に仕事して、普通に結婚して、普通の家庭を持って…ただそれだけでいいんだ…」
僕は頬を赤く染めながら語った。
「はぁ?あんたバカぁ?それ夢じゃなくて願望じゃない」
「はは、そうだね…」
でも僕は普通な事がどれだけ幸せか充分わかっている。
アスカにバカにされても嫌な気分にならなかったのは、初めて人に夢を語って少し舞い上がっていたからだと思う。
「はぁ〜あ、今日もつまんなかった〜。明日が終われば夏休みか〜」
と体を伸ばし、アスカはいつものように「さよなら」も言わずに帰っていってしまった…。
日はすでに暮れていた。
- 817 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 01:07:15 ID:???
- 家に着くと、ミサトさんがすでにビールを2缶空けて待っていた。
「シンジく〜ん、遅いんじゃな〜い、お姉さんもうハラペコよ〜」
「す、すいません。すぐ作ります」
と云い、僕は部屋に戻らずそのままキッチンでエプロン姿に着替え、キッチンに入った。
「ハンバーグゥ♪カッレーェッ!ヨーグルトォッ♪」
でた、ミサトさん得意のこれが食べたいのよソング。
「…じゃあカレーにします」
「やったー☆」
ダメだこの人。完全に酔ってる。
「あ、ニンジンは捌けてねー」
「最近遅いけどー、どっか寄ってきてんの?」
「えっ?いや、別に…」
「何顔赤くしてんのよ〜。あ、わかった!アスカちゃんでしょ〜」
「ち、違いますよぉ!学校で予習してるんです…」
「ほ〜ら、そうやってウソつくとすぐ語尾が小さくなる(笑)いいじゃないアスカちゃん、私好きよあの子」
ミサトさんとアスカはたまに二人で一緒に遊んでいるらしい。まぁウマが合いそうな気はしていたけど…
「アスカのどこがいいんですか、全く…」
「おぉ、もう名前で呼び合う仲ですか?初々しいの〜(笑)」
ミサトさんがあまりにもしつこいのでいつもより多めにニンジンを鍋に投下してやった。
………
「ふ〜、ご馳走様ぁ♪」
「ミサトさんダメですよニンジン残しちゃ」
「あ、そうそう。明日から新しくもう一人一緒に住むことになったからー、仲良くしてちょうだいね〜」
話しを上手く刷りかえミサトさんはそのままお風呂場へと消えていった。
新しく一緒に住む人って誰だろ?ミサトさんの友達かな?
まぁいいか、明日になればわかることだし。
- 818 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 01:11:46 ID:???
-
今日が終わればいよいよ夏休みだ。もちろん休みもそうだけど、一番嬉しいのはアスカから開放されること。
ここ数日、僕は一人の時間を充分に与えられてない。だからこの日がとても待ち遠しかった。
「シンジィ、わかってるわよね?今日も付き合いなさいよ」
いいとも、いいとも。今日は思う存分付き合ってやるさ。
「前みたいに逃げたらただじゃおかないんだからね!」
放課後…
アスカがもんじゃ焼きを食べてみたいと言うので、僕はトウジ達とたまに行くお店に連れていった。
「…シンジィ」
「ん?」
「もんじゃ焼きってサイテーね」
「何で?」
「この待ち時間は何?それに自分で作るなんて聞いてないわよ」
「アスカが食べたいって言ったんじゃないか。しかもそれお好み焼きだし」
「海外育ちの私がもんじゃとお好みの区別できると思う!?」
アスカはホント文句ばっかだ。でもこれ以上は火に油だからよしておこう…そう明日は夏休みなんだから!
「わかったよ、僕が悪かったよ。僕の少し食べていいよ」
と云うと、お箸でもんじゃを突付きはじめたので僕は食べ方を一から説明した。
「ん!何これ、おいしいじゃない」
「そう?ならよかった…?」
隣の人の席の鉄板を横目でジーっと見ているアスカ。
見よう見マネで自分のお好み焼きを4等分し、その一つを僕の鉄板エリアへと運んできた。
なんだ、アスカもやさしいとこあるじゃないか。
「ありがと…」
そう云うと、アスカは「ダイエットのためよ」と言いながらソースも青のりもかけずにお好み焼きにがっついた…。
- 819 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 02:06:30 ID:???
-
帰り道…
「あんたねぇ!大事なことは先に伝えなさいよ!」
僕は可笑しくて可笑しくてずっと笑ってた。
「だ、だってアスカ…ハハ!思い出させないでよッ、ヒヒ!」
殴られるかと思ったけどアスカは僕の顔を見ると、ふっと小さく微笑んだ。
こんなに心から笑ったのは久しぶり…いや、はじめてかもしれない。
明日から『放課後』がなくなると思うと、少し寂しい気もする。
いつもは肩を怒らせ2、3m先を歩くアスカも、この時だけは横に並んで一緒に歩いてくれた。
…たったそれだけのことなのに、いつもより景色が違って見えたのは気のせいだと思う。うん、たぶん気のせいだ。
「アスカ…」
僕が話しかけようとするとアスカは「キャー!」と奇声を発しながら走っていってしまった、
「加持さ〜ん!!」
長い髪を後ろで束ね、無精ヒゲを生やした30代くらいの男性に抱きつくアスカ。
「おう!アスカちゃんじゃないか!」
「もうっ!会いたかった〜!」
どうやら二人は知り合いらしい、とても楽しそうに話している。
アスカのこんな楽しそうな顔見たことないや。
僕は二人の会話に入ることなく、ただただ黙って突っ立ていることしかできなかった。
…なんだろうこの感じ。
とても心の中だけでは処理しきれない…そんな思いがすでに臨界点に達してようとしていた。
「先帰るね……」
ぼくはアスカに聞こえないくらいの声で呟き、その場逃げるようにして後にした。
「え?ちょッ!シンジッ!」
- 820 名前:Entschuldigen,sie 投稿日:2007/01/27(土) 02:12:06 ID:???
-
なんなんだよ一体。
僕は心の中で何度も悪態を吐きながら早足に歩いた。とにかく少しでもあの場を離れたかった…
「シンジ!ちょっと待ちなさいよ!」
アスカだ。
追ってきてくれたことはホント嬉しかったけど、一度引いた引き金は元には戻らない。
僕はアスカを無視して歩き続けた。
「ちょッッとぉ!待ちなさいって言ってるでしょ!」
肩を掴んできたのでその手を乱暴に振り解き、アスカの方をキッと睨んだ。
「何怒っちゃってんの?」
「別に怒ってなんかないよッ」
「怒ってるじゃない。あ、私が加持さんと仲良くしてたからヤキモチ焼いたんでしょ〜」
「…そんなんじゃないよッ」
「ほらその拗ね顔。図星なんでしょ、認めなさいよ」
「……」
「フンッ!やっぱヤキモチじゃない」
「違うって言ってるだろッ!」
僕は思わず手を挙げた…しかし、挙げたところで止まってくれた。
アスカは微動だにせず構えていた。
「…何よ、殴ってみなさいよ」
ほら、ここ、と頬を指差し僕を挑発してくるアスカ。人なんか殴ったことないのに、女の子なんて殴れるわけないじゃないか。
僕は、ゆっくりと手を下ろした…。
それを見てアスカは少し寂しそうな表情を見せる。
「サイテー」
アスカはそう云うと、いつものように肩を怒らせ、家の方へと歩いていってしまった。
…バカアスカ
- 836 名前:Entschuldigen,Sie 投稿日:2007/01/29(月) 02:34:46 ID:???
-
ミサトさんはまだ帰ってきてないのかな。…よかった。
僕はそのまま自分の部屋に行き、電気も点けずベッドへと倒れこんだ。
はぁ…思わずため息が出てしまう。
あの人、アスカの恋人なのかな?楽しそうに話してたもんなぁ。
他の事を考えて気を紛わそうとしてはみたものの、結局アスカのことを考えてしまう自分がそこにいた。
何であんなにムカムカしちゃったんだろう、僕。
嫉妬…なのかな、やっぱ。
毎日の様に振り回され罵倒されてはいたけれど、不思議とイヤじゃなかった。だから自分の時間を割いてまで付き合ってたわけだし。けど、アスカに恋心があるかと言われたら…今は自分の気持ちの中にはっきりとしたものは確認できない。
こんなに待ち望んだ一人の時間なのに、僕の心の中は停滞低気圧が渦巻いていた。
ふとカレンダーを見てみる。
次の『放課後』は一ヶ月も先だ。いや、もう永遠にこないのかも…
明日から夏休みかぁ…ちぇ、面白くも何ともないや。
ガチャッン
…玄関で物音がする。
ミサトさんかな?そういえば今日新しい住人が来るとか来ないとか言ってたな…
もしかしてアスカ!?
「シンちゃ〜ん、ちょっとちょっと!」
いや、ありえる。充分にありえる。ミサトさんとアスカは仲いいんだし。
僕は新しい住人=アスカという可能性を高めていくことで、無気力だった体を何とか動かすことができた。
アスカだったら…しっかり謝ろう。心の中はもうアスカと決まっていた。
- 837 名前:Entschuldigen,Sie 投稿日:2007/01/29(月) 02:42:43 ID:???
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玄関に行ってみると、そんな浅はかな望みは見事に打ち砕かれてしまった。
「ペンギンのペンペンくんで〜す♪」
ペンペンはミサトさんの手を離れるとヒョコヒョコ歩いてきて僕の足を擦りはじめた。
「第一印象はいいみたいね(笑)」
「……」
…僕は部屋に戻り、再びベッドに倒れこんだ。
リビングから聞こえてくる「キャハハッ」というミサトの脳天気な笑い声がとてもカンに触る。
「…何でペンギンなんですか」と訊くと「夏だからね〜♪」と意味不明な理由を一言。
「それじゃ寒くなったら東京湾に放流するんですか?」と、皮肉たっぷり込めて言う気力は今はない。
今の僕にはペンギンひと…一匹新しい住人として受け入れる余裕すらなかった。
いや、この際ペンギンはどうでもいい。自分勝手な期待を裏切られ、ミサトさんに八つ当たりしたかっただけなのかもしれない。
「アスカぁ…」
もっとアスカといろいろ話したかったなぁ…もっとアスカといろんなとこへ行ってみたかったなぁ…
会えなくなってはじめてわかる自分の正直な気持ち…今はただ嘆くことしかできない。
…とても、もどかしい。
ピシャッ
- 838 名前:Entschuldigen,Sie 投稿日:2007/01/29(月) 02:49:06 ID:???
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部屋の襖が開く音がした。
「…何ですかミサトさん。部屋に入る時はノックぐらいしてくださいよ」
僕は背中を向けながらそう云った。
全く、無神経なんだから。
「…シンジ」
「何ですか。今日の料理当番はミサトさんですよ。僕のはいらないですから」
と云ったところで気が付いた。
ミサトさんの声じゃない!
首を回し、半身で襖の方を見るとアスカが立っていた。
「……」
アスカは目線を逸らしながらこう呟いた、
「Entschuldigen,Sie」
ピシャッ
…今のアスカだよな?
僕は数秒放心状態になったあと、ベッドから降りて後を追った。
リビングにアスカの姿はない。けど、いつもは開いているはずの和室が閉まっている。
襖越しに感じる人の気配…いる、アスカはここにいる。
僕は和室の前に座り、「アスカ…」と声を掛けてみた。
…返事はない。けど、部屋の中には居る。
何を話せばいいんだろう。
うん、今は正直な気持ちを話そう…
- 839 名前:Entschuldigen,Sie 投稿日:2007/01/29(月) 02:53:06 ID:???
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「…映画館で話した夢のこと覚えてる?あれ…ウソなんだ」
僕は本当に見た夢のことを話した。
世界が終わる夢、生き残った僕と…動かないアスカ
「僕怖かったんだ…アスカが死んじゃったのかなと思って、それで…」
思い出すだけでも胸が苦しくなる、そして怖くなる。
「僕、アスカを起こそうしたんだけど、でも全然動かなくて…」
僕は今、泣いているかもしれない。
「だから…あの時も怖かったんだ…アスカが、アスカが遠くに行っちゃうんじゃないかって…ホント…怖かったんだ」
襖越しに鼻をすする音が聞こえた…
「アスカ、ごめんね…。また今日みたいにいろんなとこ連れ回してよ…アスカのこと、もっと知りたいんだ」
急に襖が開き、アスカにギュッと抱きしめられた。
そのまま2秒、いや3秒程静止、今度は乱暴に突き飛ばされ、襖を閉められた。
あまりにも唐突な出来事に僕はしばしボーゼンとしてしまった。
…な、何だったんだろう今のは。ま、まだ感触が残っている…
「用が済んだならさっさと部屋戻りなさいよ!」
襖越しに怒鳴るアスカに僕は一つ質問をしてみた、
「さ、さっきのエント何だかっての…あれドイツ語?どういう意味なの?」
「うるさい!バカ!アホ!私は同じことは2度言わない主義なの!」
アスカはそう云うと思いっきり襖を殴った。
- 840 名前:Entschuldigen,Sie 投稿日:2007/01/29(月) 03:03:11 ID:???
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寝れない…まだ心に何か引っかかっている。
もう夜中の1時か。
喉が渇いたのでキッチンにいってみると、ミサトさんとペンペンが一杯やっていた。
「あらシンジくん、どしたの〜?」
「…アスカだったんですね。新しい住人て」
「へへ〜、ビックリしたでしょ?ま、夏休み限定だけどねぃ」
僕はテーブルに座り、博学なミサトさんにアスカが言った言葉の意味を訊いてみた。
「Entschuldigen,Sie ん〜、翻訳料くれたら教えてあげる〜♪」
「もうッ、ミサトさんに聞いた僕が間違いでした」
酔っ払いの相手はゴメンだ、さっさと部屋で寝よう。
「ごめんごめん(笑)…ほんとはアスカに口止めされてるの」
どうやら行動を先読みされてしまったらしい。
「それとー、誤解を解くわけじゃないけど加持くんは私の…ん〜、腐れ縁てとこかしらね」
そう云うとミサトさんは少し照れくさそうにした。
加持さんてアスカと仲良さそうに話してたあの人か。ミサトさんの友達だったんだ…
「ま、アスカとはままごとみたいなもんよ」
その言葉を聞いて、少しホっとした…。
「そうなんですか…」
「アスカが言った言葉の意味、知りたいなら教えてあげてもいいわよ♪もちろんタダでね」
「いいんです。アスカがそう言ったのなら、知らないでおこうと思います」
「シンジくんらしいわね……じゃ、私寝るね〜、おやすみ〜」
「おやすみなさい…」
クエックエッ
「おやすみ、ペンペン…」
明日から夏休みか…楽しみだな。