【LAS人】こんなアスカは大好きだ!14【専用】
そんな葛城家 コックリさん
- 488 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 22:57:37 ID:???
- 食事も終わり、程好く膨れたお腹を押さえながらサインペンを動かす女性。
キュー、とペンが擦れる独特な音色を広がせながら作業に没頭。
「完成!」
そして、それは程無くして完成した。
「で、これ何?」
少女の感想は至極当然であった。
日本語の五十音が書かれ、その中央上には鳥居があり「はい」や「いいえ」なども律儀に備わっている。
用途が全く解らない。
「・・・・・・日本でむかーしに流行ったものでしたっけ?」
「そう、その名もズバリ『コックリさん』!」
「『コックリさん』・・・・・・?」
「シンちゃん、せつめぇい!」
はぁー、と溜め息をついて少年は少女に解り易く解説。
紙の上に十円玉を設置し、参加者全員がその十円玉に人差し指を置く。
そしてそうしたら全員で『コックリさん、コックリさん。おいでになりましたら(開けた窓の方角)の窓からお入り下さい』と言い、
少し間を置いて今度は「コックリさん、コックリさん。いらっしゃいましたら『はい』へ進んでください」と言う。
そして十円玉が「はい」に進めば、後は質問攻めをするのみである。
「地域や場所によって呼び方とか違うみたいだけどね」
「へぇー」
- 489 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 22:58:47 ID:???
- 「当時流行っていた日本ではこれを禁止にする学校があったぐらいそれはそれは怖いものなのよ!」
その台詞を聞いた瞬間ふたりは思う。
一番の怖がりがそんなものを企画するな、と。
しかし、やるものはやっちゃうわけで。
葛城家的コックリさん開始。
「「「コックリさん、コックリさん・・・・・・」」」
「窓どうしましょう? 開けます?」
「面倒だからシンちゃんの社会の窓からお入り下さい」
「開いてませんよ!!!」
間髪開けず動き出し「はい」へと向かう十円玉。あからさまに怪しい。
「降りたわね、じゃあ質問していきましょー!」
どう考えてもこの女性が動かしているのは明白である。
女性の質問
「今日、私は何本までビールを飲んで良いのでしょー?」
すすっ、と軽快に動き出す十円玉。
指し示すは「2」と「0」。
「二十本!? さっすがコックリさん、太っ腹!」
「アンタ、まさかこれだけのためにしたんじゃないでしょうね・・・・・・?」
- 490 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 23:00:18 ID:???
- 「今月厳しいのにぃ・・・・・・とほほ・・・・・・」
続いて少女の質問
「明日の晩御飯はなんでしょー?」
すすっ、と爽快に動き出す十円玉。
指し示すは「は」・「ん」・「ば」・「ぐ」。
「あら、明日はハンバーグなのね、楽しみぃ!」
「横着しないでちゃんと全部入れなさいよ・・・・・・」
「・・・・・・おとといしたばっかりなのに・・・・・・」
続いて少年の質問
「えーと、明日の天気・・・・・・とか」
すすっ、と豪快に動き出す十円玉。
指し示すは「ば」と「か」。
「・・・・・・うぇ?」
「そんな質問するからよ」
「シンちゃん、ご愁傷様」
などと、わいわいと『コックリさん』で楽しむ三人。
すると突然、ニヤリと笑った少女が突拍子もない質問を繰り出す。
「葛城ミサトが好きな人は誰でしょうかー!?」
- 491 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 23:02:20 ID:???
- 「なッ!?」
凄まじいほどのスピードで「か」の文字まで突き進む十円玉。
しかし、次の文字が進もうと言うところでそれは動きをピタリと止める。
「ぐぅぅぅ、コックリさんもこの質問の意図が解らないみたいねぇ・・・・・・」
「ぬぬぬぬ、そうかしら? 必死に動こうとしてるけど、誰かさんが止めてるだけにも思えるけど・・・・・・?」
女性と少女、ふたりして顔を真っ赤にさせながら『何か』を力一杯頑張っている。
そういう遊びではないのだが、どうかんがえても攻守が成り立っている。
しかし、指先だけで行うとなると止める方と動かす方では圧倒的な力の差が無い限り有利不利ができてしまう。
徐々にそれが「じ」の文字に近付いていく。
「ぬぅぅぅぅ! そろ・・・・・・そろ・・・答えが・・・出そう・・・・・・ね・・・・・・」
「むぅぅぅぅぅぅ!!! どかーーーん!!」
突然女性が両手で紙をバサーッ!と跳ね飛ばす。
ふわふわ、とゆっくり落ちて行く紙とペンペンの家に当たり「チャリーン」と鳴る十円玉。
「あーあ、コックリさんも怒っちゃったみたいね、これは無しね、無し!!!」
「アンタはおっきい子供か!!」
などと言い合いをする少女と女性。
なんだかなー、と思いつつそれを眺める少年。
「はい、もうコックリさんはこれにて終了!!」
- 492 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 23:04:02 ID:???
- そして女性が投げ遣りに閉会宣言。
だが、少女は少し慌ててもう一度だけ質問させてくれと懇願する。
どうせまた他愛も無い質問だろうと一蹴しようとした女性だが、少女の表情に想うところがあり、最後の一回を許す。
改めて紙と十円玉を設置。
そして少女の最後の質問。
「コックリさん、コックリさん。教えて下さい、碇シンジ君が好きなのは・・・・・・だれですか・・・・・・?」
その質問に驚いたのは当然ながら少年。
「ちょ、ちょっと!」
「うっさい! あたしはコックリさんに聞いてるの・・・・・・」
少女は顔を俯かせながら喋っている。
が、隠しくれていない耳は真っ赤なところを見ると、彼女なりに相当無理しているのだろう。
女性は今回ばかりは動かせない。
動かせるのは少年だけ。
しかし、十円玉は動く気配を見せない。
その出来事に少女、そして女性は悲しく思う。
違うかったのか? そうではなかったのか?
少女と女性は願うように少年を見つめる。
それでも十円玉は動こうとしない。
何とも言えない沈黙が葛城家を襲う。
この家で、久方ぶりに味わう、あってはならない沈黙だった。
そう……やっぱり……あたしじゃ……だめ……なんだ……
少女は目に涙が溜まるのを感じ取った。
- 493 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 23:05:28 ID:???
- 解り切っていたこと、自分にその気持ちを向けられることはないということ。
それでも、もしかしたらという淡い期待を抱いていたがそれが脆くも崩れさったことを。
そんな少女の姿を見て、女性は胸を痛ませることしかできなかった。
が、ここで沈黙は少年の一言で破り去られた。
「コックリさん、来なかったね・・・・・・」
その表情は安心したようで少し残念そう。
少女はその言葉にあまり反応を示さなかったが、女性は嫌な予感に駆られる。
「シンちゃん・・・・・・? さっきの私の行動でコックリさんって帰ったと思う?」
少女は女性の質問の意味がまったく理解できないでいた。
が、少年にとってはその質問が極当然のように答える。
「かもしれませんねぇ、ちゃんとした終わり方しなくても帰っちゃうんですね」
しかも真顔でこんなことを言う始末。
はは、と乾いた笑いを洩らしながら女性は少女に耳打ち。
(あはは、シンちゃん純真だからマジで信じてたみたい・・・・・・)
(どういう意味よ・・・・・・?)
(今までのぜーんぶ、答えてたのがコックリさんだと思い込んでるってこと・・・・・・)
一瞬の間。
そしてその刹那。
- 494 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/08(月) 23:06:52 ID:???
- 葛城家から響き渡る「こぉのぉバァカシンジィィィィィ!!!!!!」の声。
今宵もこの家は騒々……いや、賑やかなのである。
そんな夜。
一騒動終えた後。
あとは寝るだけとなった葛城家。
ズタボロになりながらも必死になって少女を説得した少年は心身ともに疲れ果てた様子。
女性は欠伸をしながら部屋へと戻る。
机の上にはあの紙と十円玉がそのまま。だーれも呼べていないのだから返す儀式も必要ない。
それに向かって少女は心の中で質問する。
(コックリさん、コックリさん。あたしとシンジは一緒に何時までも一緒にいられるでしょうか?……なんてね)
それだけ想い、彼女も就寝する。
パチッと消された電気。訪れる闇。
その中で動き出す十円玉。
誰も呪文を唱えていないのに。誰も人差し指を触れていないのに。
それでも十円玉は「はい」へと向かう。
ホラーチック? それともロマンチック?
それは誰にも解らないまま、夜は更けていく。
そんな葛城家。