【LAS人】こんなアスカは大好きだ!14【専用】
そんな葛城家 会話
570 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/14(日) 21:13:29 ID:???
ふぅー、と溜め息を洩らし集中する。
懐かしいこの感覚が弥が上にも心から平穏を奪っていく。
そしてそれは焦りを生み、昔の自分が蘇るのが直感で解ってしまう。
あの頃の自分と違う、それは理解しているという言葉ではなく、既に自分で認めている。
しかし、それさえも今は蝕われていくような感覚に少女は流されるだけだった。

「アスカ、リラックスして」

白衣の女性からのアドバイス。
そんなことは解っている、さっきからそれを実行しているつもりだ。
結局のところ『つもり』でしかなく結果に結びついていないのは明白なのだが。
苛立ちに加え気分も優れない。
自分からやりたいと申し出たことだけに悔しさが滲み出てしまう。
シンクロ率の低下、向上の予兆無し、ただのお荷物、誰もアタシを見てくれない。
チガウ、チガウ、ココデ結果ヲダサナクテモ、二人ハアタシヲ見捨無イ!!
考えたくも無い。
馬鹿らしいほど自分で自分を精神汚染。
道化としか言い様が無い自分の姿に涙が出そうになった。

「アスカ、様子見に来たよ」

モニターに映し出されるその姿。
一番会いたくて、一番会いたくない少年だった。
それは今の自分を一番見られたくない相手。
自分が情けないから、とかそんな陳腐な理由じゃない。
この後、少年が掛ける言葉を聞きたくないからだ。
『大丈夫』?それは何を持ってそう言える?
『気にしなくても良い』?それで自分に価値はあるのか?
『これから上がるよ』?変わらなければどうなる?仮に上がったとしても下がればどうなる?
止め処なく押し寄せる感情。

571 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/14(日) 21:14:43 ID:???
少女にはどうしようもなかった、『あの時』心を覗かれた時のように。
少年の後ろから小さく、シンクロ率更に低下しています、という言葉が聞こえる。
こんな状態ではそれも当然の結果だ。
少年にもその言葉が届いているのだろう、少し目線を動かした。
少女は願った、少年の口から何の言葉も出ないことを。
しかし残酷にもその願いは聞き入れらることはない。

「アスカ―――」

透き通る声。
変わらぬ表情。
その口から如何なる言葉が零れようと自分はもう壊れるかもしれない、少女は悟った。
だが、少年はいつも斜め上を行く。

「―――お昼何食べよっか?」
「……はい?」

モニターに映る少年の顔をまじまじと見詰める少女。
誇らしげに言うのも恥ずかしいことではあるが少女にとって少年の変化には直ぐ気が付くのである。
ただでさえ不器用な少年なのだから。
だが目の前にいる少年の表情は何時も通り、そう普段と一緒の少年である。
勇気付けようだとか、慰めようとか、優しく接しようだとかそんなものが一切感じられない。
ただただ、これから一緒に何を食べようか?と純粋にそう思っているだけ。
そんな少年のぼけぼけっとした表情を眺めていた少女だったが突然モニターが消え、音声だけが響き渡る。

「シンジ君、そういうことを言いに来たんじゃないでしょう!?」
「えっ!? 何か間違えました!?」
「そうよ、シンちゃん。ここはねぇ! ガツンと言ってやるべきなのよ!」
「あら、ミサト、保護者らしくなったじゃない! そうよ、言ってあげて。出来るだけ優しくね」
「まっかせなさい!」

572 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/14(日) 21:15:54 ID:???
どうやら姉である女性も一緒だったようだ。
騒々しい声で良く解る。
次は女性の番、今度こそ聞きたくない言葉が聞こえてしまうのか。
ブン、と表示されるモニター。映し出されるは予想通り女性の顔。
そして言葉は発せられる。

「アスカ……、あんたねぇ、私が楽しみにしていたプリン食べたでしょう!? お風呂上がりに――――」

またしても切断されるモニター映像。
そして怒号の嵐。

「やっぱりミサトに期待した私が馬鹿だったわ! 違うでしょ、そうじゃないでしょう!?」
「何がよ!? 私の楽しみを奪ったんだからガツンと言うべきじゃない!」
「違うでしょ!? 二人とも今は何をしているところ!?」
「「アスカのシンクロテスト」」
「そうでしょ!? だったら掛ける言葉もあるでしょう?」
「……食堂で待ってるよ?」
「……帰りに変わりのプリン奢れ?」
「出てけ!」

やいのやいのと喧しいことこの上ない。
だが、どれもこれも少女にとって心に滲みる。
白衣の女性はアタシが掛けて欲しくなかった言葉をふたりが言うものばかりだと思っていた。
全て論理的に語る白衣の女性なりの優しさか。
そしてなによりも少年と女性は何も言葉を掛けてくれなかった。
家族としての会話以外は。
それを理解した途端少女は全てのことがどうでも良くなった。
意味合い的には昔に思った気持ちと一緒だったが、自暴自棄になったからじゃない。
『こんな事』で執着する必要はなくなっただけ、それに気付いたから。
少女はまだ響き渡る声を聞きながら蹲って笑っていた。

573 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/14(日) 21:17:10 ID:???
今の今までなんとも思ってなかったが、この空間にLCLで満たされていることに感謝する。
今、仮に姿を見られたら笑っているだけで済む。
が、もしここにLCLがなければ泣いていることにも気付かれてしまうから。
はぁー、と大きく溜め息をついて上を見上げる。
女性が姉で良かった、少年を好きになって良かった。
その気持ちを噛み締めながら少女は満面の笑みで一言洩らす。

「ホーント、馬鹿ばっかり」

そんなネルフでの一日。

んで、少女の申し出によりテストはそのまま終了。
昼食を取り、まったしたところで何故か男性の西瓜畑があるところで缶蹴り。
女性が飲み下したビール缶を見て思い付いたようである。
西瓜畑を荒らされないかと監視していた男性も一緒に。
ま、普通の生活と懸け離れた日常だからこそ、こういうことで盛り上がるのも楽しいものである。

「葛城が鬼か」
「3分でみーんな、逮捕よぉー!」

男性が缶を蹴る直前、少女は少年の手を取った。少年はそれに対して嫌がる素振りもない。

「さぁ、どこに隠れましょうか?」
「んー、あっちの茂みで良いんじゃない」

ぼそぼそと小声で相談するふたり。手を取り合って。
缶蹴りのルール上ふたりで隠れるのは効率的とは言わないのだが、この場合言わぬが花、なのであろう。
いつまでもふたりが一緒にいることを願って男性は大きく缶を蹴り上げる。

「あ、西瓜に当たった……」

574 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/14(日) 21:18:29 ID:???
で、この缶蹴り場から少し離れた所。

「センパーイ」
「あら、マヤ。どうしたの?」
「さっきのアスカのシンクロテストなんですけど、ほらシンジ君と葛城さんがアスカと会話した時」
「ああ、あれね」
「あの時、シンクロ率がとんでもなく跳ね上がってるんですけど!」

手渡された書類を見る。
確かにあのふたりが乱入した際にシンクロ率が鰻上り。
その結果を知った白衣の女性は自分の考えが大きな間違いだったと気付かされる。

「これをアスカに伝えれば大喜び―――」
「マヤ、言わぬが花、よ。もう良いじゃない、アスカにとってどんな結果であろうともう関係無いみたいだし」
「はぁ……」

女性は意味が良く解らぬまま、返事をする。
そんな女性の反応に苦笑しながらも白衣の女性はどこか晴れ晴れとした表情だった。

「……ロジックじゃないわね、ホント」
「ところで、センパイ」
「なに?」
「缶蹴りに参加したいなら素直に言うべきだと思います」
「……簡単に言わないでよ……」


そんな葛城家。
と、愉快な仲間達。