【LAS人】こんなアスカは大好きだ!14【専用】
そんな葛城家 と愉快な仲間達
673 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/29(月) 03:09:14 ID:???
少女は少々焦っていた。
突然の事だったのだ。そう突然だ。
本名よりも「副指令」と呼ばれることが多いその老人に招集されたのだ。
自分はこの場所に相応しくないのは解っている。
この前の実験結果でその答えも出ているのだから。まぁ、それでもなぜか追い出されることはなかったが。
だが今回呼ばれたとなるとその件についてだろうか。

「突然呼び出したりしてすまなかったね」
「いえ、構いません」
「まぁそこに掛けて」
「はぁ」

促されるがまま席に着く。
そして机の引き出しから一枚の紙を取り出し、少女の前へとそれを置いた。

「罪滅ぼしだとかそういうわけじゃない。ただ君達には悪いことをしたとも思っているし、感謝もしているのだよ」
「……それが、これ、ですか……?」

少女が示す「これ」。
そこにはありとあらゆる優遇された対応を受けられることを示していた。

「何とも皮肉な『飴と鞭』だよ。あれだけの『事』を起こして君達を苦しめた『鞭』を、こうした『飴』を提供することで和らげられないのだから」
「しかし、これは……」
「ん? 不服かね?」

不服どころのモノじゃない。
自分が欲していたものばかりが与えられるとその書類には記されている。
これを拒否する理由は皆無に等しいと言えるだろう。

「あまり良い思い出も無いこの国にいるより、自分が育った故郷へと帰るのが一番だと思う。在り来たりな言葉でしか言えないが、そうではないのかね?」

674 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/29(月) 03:10:37 ID:???
「……」

確かにここでの思い出は良いものばかりじゃない。
苦しみ、悲しみ、妬み、痛み、そして抜け殻にもなった。
そんなこの国に未練などあるだろうか?
そう、未練は無い。

「だったら答えは決まっているのだろう?」
「はい」

そして少女は確固たる意志を持って答える。

「お断りします」

老人は黙ったままではあったが少々驚いていた。
しかし少女はその様子を気にすることも無く言葉を述べる。

「未練なんて無いですよ、この国に。でも、たまたま、だったんです。たまたま、あの馬鹿がいて、あのグウタラな保護者がいて、湯船に浮かぶ鳥が一羽この国にいたんです」
「……」
「楽しんで、喜んで、笑って、泣いて、そして生き甲斐を見つけた、言葉にするだけなら陳腐ですけどね、『家族』を見つけたんです」

少女は笑顔で言葉を続ける。
老人は黙ってそれを聞くだけしかない。

「だから、そんなたくさんの馬鹿と離れるぐらいなら、この国を好きになりますよ。幾らでも」

それに、と言葉を続ける少女。
少しはにかんだ笑顔がとても眩しい。

「恋する少女は、そう簡単に好きな人から離れたりしないものなんです」

675 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/29(月) 03:11:50 ID:???
可愛らしくウインクなど。
老人は流石に呆気に取られて口をポカンとさせている。
少女はそんな老人の表情を真っ直ぐに見据えながら、一言「失礼します」と言って部屋を後にした。
踵を返し、部屋を出て行く少女を見送りながらもまだ狐につままれた状態であった老人。
だが、程なくして老人は声を抑えようともせずに笑い出す。

「はははっ、『恋する少女は銃より強し』か!」

手元に置かれていた湯呑みを持ち上げ、茶を啜る。
そしてふと机に置き去りにされた紙切れを見つけ、それを何回も破る。

「正に『世は全て事も無し』、こういう世界も案外悪くない」

そして老人はもう一度茶を啜る。
茶柱が立つその湯呑みを見詰め、なるほど茶柱が立つと良い事が起きるのは案外嘘でも無いな、と一人納得していた。

そんなネルフでの一日。


さて、少女にそんな申し出があったということは色んな人達にも同じように優遇されたものを与えようとしたわけだが。

「いりません。『家族』とは離れるつもりはありません、『ごっこ』だろうと笑われようと」
「申し訳ありませんがお断りします。今の私はふたりを一人前の大人にする義務があります、『家族』として」

そう言われて却下された。
にも関わらず老人は終始笑顔であったそうな。
で、今回のこれ、誰が言い出したかと言うと
「実はこれは私ではなく、碇、ああ、指令のね。彼が言い出したことなんだよ、まったく素直じゃない奴だ。おまけに処理は私に任せるのだから困ったものだよ」
だそうな。
この事実を知った少年は「父さんが……」と一言だけ呟き、やっぱり本当の親子の絆みたいなものを感じていたそうな。

676 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/10/29(月) 03:13:09 ID:???
で、そんな少年の態度を見て少女と女性は……

「指令! 私は負けませんからね!」
「アンタ見たいな子供を見捨てる親を、アタシはずぅえーーーったい認めないからね!」

膨れながら直々に指令へ宣戦布告したそうな。まぁ、所謂嫉妬というやつです。

「……冬月、今のはどういう意味だ……?」
「くくっ、さぁ? 一体なんなんだろうな?」

そんな葛城家。


更に更に、指令と呼ばれる男性。
これだけで終わらず。
チルドレンふたりだけにあの伝令がいくわけもなく、残るもうひとりにも勿論いっているわけで。

「指令! なんですかあれ!? 優遇された社会的立場を与えれば済むとお思いですか!? シンジ君とアスカに関してはミサトに任せるとして
 レイの事に関しましては今後一切私が責任を持って面倒をみます!」

もうひとりの少女に関して白衣の女性からお説教を喰らったそうな。

「……冬月、私はこの世界でやっていける自信が無い……」
「そうか? 私は存外気に入っているよ」

そんな葛城家と愉快な仲間達。