【LAS人】こんなアスカは大好きだ!15【専用】
“きもちわるい”
406 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2007/12/27(木) 22:25:38 ID:???
あの苦い戦いの日々も終幕をむかえ
生命のスープに帰化した人々も形をなし、還ってきて久しい
復興著しい第三新東京市のとある一室にて
今日も今日とて作戦会議に勤しむ怪しき面々

議員に、いまいち真剣みが感じられないのは議題に辟易してる為か
同じ議題の議会開催回数が三桁に突入した為かは定かではない。
しかし議長は今日も今日とて抜き身の真剣そのものの鋭さを帯びている。

「さぁ!
無駄口叩いてる暇があったらアタシがアイツに
あの海の畔で云い放っちゃった
“きもちわるい”を
今まで起こった事象、曲解する事無く全て甘んじて受け入れ
尚且つ自然な色合いを匂わせながら
ゲロ甘に展開するシチュを考える作業に戻るのよッ!」

広くない部屋のそこかしこから嘆息が漏れる。
謀反を起した万年ジャージは既に肉塊と成り果て部屋の隅に転がり
ミリタリー眼鏡は親友だったものをファインダー越しに眺めながら
争いの後に残る虚しさをひしひしと感じ
非情で理不尽な現実からの逃避を既に果たしていた。


407 名前:続き 投稿日:2007/12/27(木) 22:27:54 ID:???
「“きもちわるい程に愛してる”とかで良いんじゃない?」

比較的良識人に分類される、おさげ髪の友人は素っ気なく云う。
“狂おしい程に愛してる”何て言葉があるくらいだから
“きもちわるいほど〜”も同様な感じで、要するに告白すれば?である。
それを聞きながら議長、臆面もなく面白くないと顔を歪め
見る見る内に不機嫌オーラを撒き散らし始めた。

(……そんなホイホイ簡単素直に告白出来るんなら苦労ないわ!
大体アタシが告白出来てたら今頃、熱く溶けた泥の様に睦み合い
甘く爛れた蜜月を享受してんのよ!
大体“きもちわるいほど〜”何てアタシが気持ち悪いモノフェチみたいじゃない!)

と口にしようとして止め、鋭い視線のみで“そんなの認められないわ!”と反抗する。
だが流石は毎度の事なのだろう
おさげ髪は居竦まるでもなく溜息混じりに紅茶を啜り臆面も見せない。
彼女の彼女たる所以を知り得ているからだ。
簡単な話し、自分の中でわだかまってるわだかまりを氷解させ
尚且つ意中の彼主動のゲロ甘に展開するシチュエーション立案。
それを現状にて可能な限りトレースし
あわよくば自分をゲロ甘の高みへと持ち上げる打算段なのだ。


408 名前:続き2 投稿日:2007/12/27(木) 22:29:25 ID:???
「告白はさせないわ。私がコクるもの」

「キミはボクと同じだね」

「私は私、貴方じゃないわ」

議長席対面で傍観していた元巨大オブジェが間髪容れず異を唱え
元最後のシ者が如才無い笑みを張り付け、それに便乗する。
しかし憤怒すると思われた炎髪碧眼の居座る上座からは
先程からの眼光を湛えながらも軽い悪態を投げられるに留まった。
いけ好かない、が云うほど嫌いじゃない。
この朴念仁がムキになる様は寧ろ愛らしく思われる程。
何より、その節では多大な世話になったりで感謝している様が
仄かに弛む瞳の険から伺える。

「あの……僕は気にしてないよ?
それにダメなヤツだったのはホントだしね。
ゲロ甘ってよく分からないけど……僕、頑張るよッ!」

「何で、そんな自虐的なのよ。
そんなだからアタシが不安になっちゃったりするんで……しょ?……
もっ……とシャキシャ……キ??」

ふと馴れ親しんだ声へ無意識に返答しながら彼女。
怒涛のうねりをあげる津浪の如き違和感。
嫌な汗と共に噴き出すそれを止められず目を泳がせる。

(うそ……でしょ……)

「あッ……あの、ごめん」


409 名前:続き3 投稿日:2007/12/27(木) 22:34:31 ID:???
刹那、肉塊を除いた議員全員が声の発生源へ驚愕の視線を叩きつける。

(ッ?!なんでアンタがッ!?)

停止した思考を再起動させながら今一番の疑問をぶつけようと立ち上がり
開口しようとして灼熱を纏わせた紅い瞳に阻まれる。

「私と(ボクと)
一つになりましょう(一つになろう)
それはとても気持ちの良い事よ
(それはとても気持ちの良い事なんだよ)」

感嘆する程のユニゾン口撃。
訴え掛けられた少年はたじろぎながらも
何とか平静を保ちつつ抗議しようとして軽く二人を押しやる。

「……そぅ……ダメなのね……もぅ……」

“えッ?”と疑問符を投げ掛けるも少女の言葉は続く。

「これは……涙?……泣いているのは……私?」

「キミは……ボクと……同じだね……」

「私は私……貴方じゃ……ないゎ……」

片や無表情に大粒の涙を溢し
片や寂しげな笑みに泪を滲ませ
まるで最初から一つの塊だったかの様に緊と抱き合い介入の余地
微塵もない。

410 名前:続き4 投稿日:2007/12/27(木) 22:36:26 ID:???
目の前の展開に多少困惑しながらも
黒髪柔らかな中性的少年は意中の少女を求め視線を移し
そして眼が合う。

「あッ……あの……頑張るから」
その真摯な眼差しに焼かれたのか
少女は髪止めの赤よりも顔を朱に染め“バカッ”と小さく罵り
俯いて、もう一度そう呟く。
少年もそれへ律儀に“うん”と応えた。

「あッ……アンタの頑張り次第ね!
アタシの為に頑張るのよ!」

状況や会話を把握しきれない侭
らしくない自分を払拭しようとして空回り
よく分からない事を口走ってしまう。
それにも少年は直向きに受け答えし少女は心を温めた。

「優しく……するのよ?」
「うん、優しくする」

「アタシ以外の女の事、考えたらコロすから!」
「うん、他の女の子の事、考えないよ」

「アンタの全部はアタシの物なんだから!」
「うん、僕の全部をあげる」

「アタシに云う事あるでしょ!さっさと云いなさいよ!」
「うん……大好きだよ――」

411 名前:続き5 投稿日:2007/12/27(木) 22:37:20 ID:???
続き少女の名を告げ
加速度的に甘ったるくなる糖蜜不可思議空間に曝され
おさげ髪の現役級長は辟易と溜息を漏らしながら
隅に転がる万年ジャージを転がして膝枕し介抱に勤しみ始める。
ネバーランドから半分帰ってきたヲタク眼鏡は咫尺の光景に心打たれ
平和の素晴らしさをファインダーに納め、それを噛み締めた。


そして今日も今日とて作戦会議は始まる。
最早、惚気合戦の様相を呈したそれは作戦も何もあったものでは無いが
それでも作戦会議であり、作戦会議は終わらない。
一つ空いた椅子は世界中の幸せをファインダーに納めると息巻いて
相棒片手に飛び回る天才カメラマンの永久議席。
小さな椅子は、小さな新しい一員の為の物。
今日も一段と抜き身の真剣さながらな議長と小さくも勇ましい副議長
あぁ……今日も現役万年ジャージは、その命の炎が潰えるのだろう
そして今日も今日とて第三新東京市は平和そのものである。