30氏
30 名前:1 投稿日:04/09/14 18:49:48 ID:???
分かりきったことだが、シンジはサードチルドレンだ。
『人類の驚異と戦う正義の(正義は関係ないかも知れない)ロボットのパイロット→世界で3人』なのだ。
その非日常に過ぎる響きに実感を抱くのは難しいが、世間様から見れば、金メダリストもびっくりなスーパーヒーローであるには違いない。
女性的すぎる顔立ち、控え目にすぎる性格も、見る人によっては美点と捉えることだってあるのだろう。
価値観の違いとかそんなので。
だから、まあ、バカシンジにイカれる女性の一人や二人や、幾多数がいたとしても、摩訶不思議な現象ではないのだきっと。
例えあのバカが、どれほど見事に、真剣に、手加減抜きにバカシンジであろうと、バカなりに騙されるバカ女もいるわけで、やーいバーカバーカ。

などと取りとめない思考に遊ぶうち、収拾がつかなくなってきた。
切り替えて、アスカは眼前の光景に意識を引き戻した。
放課後、裏庭。
自分を取り囲む7人の女子生徒。
絵に描いたようなシチュエーションに、曰く「私たち、碇君のファンなの」。
爆笑せずにこらえた自分は偉い、と密かにアスカは思う。

「惣流さんと碇君、付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「当たり前でしょ」

「信じられない」「だったら何で」・・・。7人から口々に疑惑の声が挙がった。
「本当よ。ていうかさ、あたしの言葉を信じるつもりがないなら、あたしに尋ねる意味ってないんじゃないの?」

31 名前:2 投稿日:04/09/14 18:50:46 ID:???
「・・・じゃあ、二人はどういう関係なの? いつも一緒にいるし、その、一緒に住んでるじゃない」
「それはパイロットとしての」
「綾波さんは違うのに!」
「ぅっ」
痛いところを突かれてしまった。初めてアスカが守勢に回る。
「お願い。誤魔化さないで、ちゃんと答えて欲しいのよ」

シンジとの繋がりについて、からかわれる事は多い。
主にジャージやメガネの人物から。
そうした場合は『パイロット仲間』とか、時には『ご主人様と下僕』などとしてこちらも適当に返している。
しかしよくよくの所は?
普段はあまり考える事がない―――あるいは考えないようにしている―――このテーマ、改めて追求されると、すんなりとは答えが浮かばなかった。

『パイロット仲間』で片づけられない事くらい、元より気づいていないわけもない。
自分とレイ、自分とシンジでは全く関係が異なるのは事実だし、問題の同居はNERVの都合で決まったことではない。
ユニゾン訓練後、同居の継続を申し出たのはアスカ自身なのだ。
けど、じゃあ、他に何だというのだろう?

―――『友達』? 全くの間違いではないだろうけど。それにしては、やっぱり距離が近すぎるかなぁ。
―――『家族』? ミサトなんかが喜びそう。でも、シンジってばアタシをえっちな目でチラチラ見てることあるのよねー。ま、こぉんな美少女と暮らしてるんだから仕方ないけどさまったく男ってこれだからバカでスケベで

「惣流さん? あれ? 惣流さん?」
「もしもーし、聞こえてますかぁ」
「なんか、すっごく考え込んじゃったみたいね・・・・」

32 名前:おしまい 投稿日:04/09/14 18:51:37 ID:???
女子生徒達を置き去りにアスカの思索は続く。
そして徐々に、一つの表現に収束されていった。
『友達以上恋人未満』。
しかし、なんと陳腐で気恥ずかしい言葉だろうか。
それに、的を得ているようでいて、こうした定型にはデリケートなサジ加減、現実の機微なるものが欠けている気がした。
(もっと、こう、事実に即しつつ・・・)

「あっ!」と、閃いた。
「分かったわよ、あたしとシンジの関係」
ようやくこっち側に帰ってきたらしいアスカに、あきらめ顔で雑談中だった7人の注目が集まる。
いわば吊るし上げだったこの機会。
いつの間にか、アスカの言葉を待つ講義のようになってしまっていた。
「一言で表すと―――」
間が一拍。

「『暇つぶしにキスする関係』!」

颯爽と言い切って、得意満面のアスカ。
呆然とする面々。
音が消える。時間が止まる。
それを見回して、なんとなく、勝った・・・っぽい。そんな爽快感をアスカは感じていた。

自分のセリフを反芻して、湯気が出るまで赤面するまでは。