【LAS人】こんなアスカは大好きだ!5【専用】
バレンタインネタ 853氏
853 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:05/02/14 10:27:26 ID:???
ケンスケ「はいはーい、一列に並んでー!」
トウジ「ほれ!そこのアホ二人!こんなとこでケンカすんなや!」

シンジにチョコを渡そうと、文字通り列を成す婦女子達。
それを交通整理する二バカ。
目の前にチョコの山をうず高く築いていく女達にに
少し俯きながら気恥ずかしそうに礼を述べていくシンジ。


ヒカリ「アスカは並ばないの?」
アスカ「冗談。なんでアタシが。」
不機嫌そうに外方を向くアスカ。

ヒカリ「あげないの? 男の子って意外とそういうの気にするのよ?」
アスカ「気にさせとけばいいでしょ。馬鹿馬鹿しい。」
ヒカリ「じゃあ私あげてこようかな……う、嘘よ嘘。」
物凄い目付きのアスカに睨まれ、慌てて取り繕うヒカリ。

860 名前:853 投稿日:05/02/14 18:54:33 ID:???
小説って程の偉そうなモンでも無いのでココ借りちゃうね。


喧騒は休み時間が訪れる度に続いた。
積まれていくチョコレートの包みの数に比例するように
アスカのイライラも積み重なっていった。

「ホンマ……エライ数やな。」
「ああ、これ全部シンジのかぁ。俺もEVAに乗れてればなぁ……」
「へへへ……」
満たされない男達が口々に文句を垂れる。
満たされた男が照れくさそうに頭を掻く。

不意にアスカとシンジの視線がぶつかる。
「……何見てんのよ。」
「え、いや、アスカはくれないのかなーって……」

「先生……そら望みすぎっちゅーもんでっせ。」
「何だよシンジぃ、それだけ貰ってもまだ欲しがるのかよ。お前、いつか刺されるぞ?」
俺なんか一つも貰えないのに、とケンスケが悔しそうに呟いた。

それを聞いたアスカの唇の端がつり上がる。
「あら、それは辛いわねぇ。んじゃアタシのあげよっか?」
『えっ!?』
三バカの声が綺麗にハモる。

861 名前:853 投稿日:05/02/14 19:16:40 ID:???
「な……何で……」
「欲しがってるヤツにあげたほうが喜ばれていいじゃない?」
「で、でも」
「最初からアンタにあげるつもりなんか無かったしィ。」
絞り出すような声で呻く、元・満たされた男の声。
それを覆い尽くすように響くアスカの冷たい声。

「はい相田。惣流アスカラングレーより親愛と友情をこめて。」
かばんから取り出した大き目のハート型の包みをケンスケに差し出す。

「え―っと……マジ?」
「もっちろん。要らないんなら別のヤツにあげるけど。」
「くれるってんなら貰うけどさぁ……いいのか?」
「いいのよ。アンタにあげるわ。」

にわかにざわめく教室。
目下の本命と思われていた女の暴挙に浮き足立つ女子。
意外な穴馬の幸運に殺意を燃やす男子。
こんな状況になった理由を沈痛な面持ちで考え込むシンジ。
さして面白くもなさそうに現状を見つめるアスカ。
親友の顔と、その同居人の顔、手の中の包みを、困った顔で交互に見比べるケンスケ。
オモロなってきたわ、とにやける似非関西人。
ただひたすらオロオロとする学級委員長。


863 名前:853 投稿日:05/02/14 19:42:07 ID:???
―当て馬、か。

日頃の態度を見ていれば一目瞭然。
まかり間違ってもチョコを貰う理由など見当たらない。
元々眼中に無いのは分かり切ってる。

―ったく子供だよなコイツ……
態度と口は悪いが、根はイイ奴なんだが。
如何せん子供過ぎて自分がコントロール出来てない。

―しょうがねぇ、今回だけは助けてやるか。
ケンスケのメガネの奥がキラリと光る。

「いやー、まさか惣流からチョコ貰えるとは思わなかったな。」
「感謝しなさいよー? 優しい神様と私に。」
「これ貰ってもいいんだよな?」
「ええ。ゆーっくり味わって食べ――」
「貰った以上俺のモンだよな?」

教壇へ上がったケンスケは大きな声で、みんなに聞こえるようにこう言った。

「さぁさぁ、モテなくて淋しい思いをしてる男子諸君、
 これから第一回『惣流のチョコ争奪オークション』始めっぞ〜!」


865 名前:853 投稿日:05/02/14 19:57:17 ID:???
「ちょ……」
「参加資格はカネがある奴!カネさえあれば惣流のお手製チョコが!」
「待ち……」
「最初は千円からいってみよー!」
「待っちなさいっつーの!!!」

悲しいかな。アスカの絶叫はどこからとも無く沸き起こる
熱気篭った男子生徒の金額提示の声に掻き消された。


「3150!」「俺3400!」
「3500!」「おまっ……ふざけんな!」
「3700!」「酷い……さっき一生懸命作ったチョコあげたじゃない!」
「彼女アリは混ざんなよ!3800!」「お前が言うな!3850!」

様々な思惑が交差して修羅場と化す2−Aの教室。
もはや目が危なくなってる奴。コールした奴の胸倉を掴む奴。
彼がオークションに参加して泣き出してしまう奴。
微妙に値を吊り上げて遊んでる奴。財布の中身を確認して計算してる奴。

そんなお祭り騒ぎが。
シンジが一言放った「ごせんえん」でぴたりと鳴り止んだ。



866 名前:853 投稿日:05/02/14 20:08:57 ID:???
「五千出ました! 五千、他無いか他ー!」
左手を目いっぱい広げ、高々と掲げたケンスケが煽る。


「居ないならシンジで決まりだぞー。五千、他無いかー!」
「ろくせん。アタシが参加したって構わないわよね?」

たかがチョコレートに六千円もの金を出そうとするバカの顔を一目見ようと
クラス中が一斉に声のした方に目をやる。

そこには薄笑いを浮かべ、頬杖をついたアスカが小さく手を上げていた。
「! 邪魔しないでよ! 6100!」
「アンタなんかにあげてたまるもんですか。6200。」
「何でだよ……6300!」
「アンタに貰われるのは絶っ対イヤ。6400。」

壮絶な一騎打ちと対照的に、水を打ったように静まり返る教室。
あるものは出来レースと察知し、次の移動教室の準備を。
あるものは彼氏に制裁を。
あるものは茶々を入れようとするが別の誰かに口を塞がれる。

「何でだよ……何でだよ6500……」
「しつっこいわね、イ・ヤ・だ・っつってんでしょ!6600!」

868 名前:853 投稿日:05/02/14 20:21:35 ID:???
それが最後のコールとなった。
6600の声と同時にシンジが急に立ち上がる。

「もう……いいよ……」
そのまま力無い声を残して、彼は教室裏の出入り口から走って出て行った。


「……あれ?」
「毎度あり。6600円でお買い上げーっと。」

「あれ?あれ?ちょ、待ちなさいよシンジ!」
「ほら、カネは後でいいから持ってけよ。」

ケンスケの手から放たれた、緩やかな弧を描き宙を舞うハートの包み。
それを慌ててキャッチすると、アスカは全速力で駆け出した。

―ホント、ガキだなお前ら。
ケンスケはやれやれといった表情で次の授業の教科書を揃えると
踵を潰した上履きを鳴らして音楽室へと向かって歩き出した。

869 名前:853 投稿日:05/02/14 20:34:27 ID:???
「待ちなさいってばっ!」
「離してよ!もういいって言ってんだろ!」
俊足を飛ばしてシンジにようやく追いついたアスカ。
シンジの肩にようやく手をかけるも、あっさりと振りほどかれる。

「良かないでしょ!アタシのチョコ欲しかったんでしょ!」
「もう要らないよ!誰かにあげればいいだろ!」
強引に振り向かせたシンジの目に光るものが浮かんでいた。

「……泣いてんの?」
「……」
返事は無い。
ただ無言で目の辺りを腕で拭う。

「バッカね、泣くことないじゃない。少しからかっただけでしょ?」
「……」
シンジの腕の動きは止まらない。
涙腺は意思に反して次々と涙を供給する。
一度切られた堰は、まるで決壊したダムの如く手の付けようがない。


875 名前:853 投稿日:05/02/14 20:51:52 ID:???
アスカ自慢の高い知能もこんな場面では役に立たないようで。
格好悪い言い訳だけが大脳に提案されるのみ。
「……悪かったわね。」
「……」
「あー、もう……ごめんなさい。」
「……なんで」
「?」
「なんであんなことするのさ……」
「そりゃあ……」

言えるわけがない。
ヘラヘラと鼻の下伸ばしてチョコ貰ってる姿にヤキモチ焼いたなんて。

「私からもチョコ貰えるのが当然!みたいに話しかけてきたのが気に食わなかったのよ。」

グッジョブ。ナイス脳味噌。

「……それだけ?」
「それだけ……って十分過ぎるじゃない。アタシの性格知ってんでしょ?」
「知ってるけど……だからってあそこまで……」
「だから悪かったって謝ったでしょ? やりすぎました。ごめんなさい。」
ハイハイ、といった感じで頭を下げるアスカ。

「……じゃあ最初はそれ、僕にくれるつもりだったの?」
「それは……」
慌ててハートの包みを腰の後ろに隠す。


876 名前:853 投稿日:05/02/14 21:04:40 ID:???
「それとも本当に……」
「ばーか。そんな相手居ないわよ。」

「まぁ……アンタにはご飯だ掃除だ洗濯だ―って色々思う所もあるし……
 一応パイロット仲間だし……まぁ……頼りないけど――――」
最後の方はアスカ以外には聞き取れないほどの小さな声だった。

「ま、そ、そういう訳なのよ。別に深い意味は無いんだからね!」
「う、うん。」
「義理なのよ義理!」
「わ、分かってるよ……」

義理だ義務だ社交辞令だと言いながらも、何故か耳まで真っ赤っ赤。
表彰状のように受け取るシンジも普段見ないくらい動きがぎこちない。

「ったくもー、チョコ一つ渡すくらいで手間掛けさせないでよね!」
「うん。今度から気を付ける。」
「今度ぉ?」
「あ……いや、その……ゴメン。気を付ける。」
「ホントに分かってんでしょうね……」


880 名前:853 投稿日:05/02/14 21:18:52 ID:???
「あの……さ。お願いしてもいい?」
「何よ。」

「さっきケンスケにあげる時にやった『親愛をこめて』って奴……
 やってくれ……ないよね。ごめん、いいや。何でも無い。」

言いかけた所ですぅ、っと細くなったアスカの眼を見て途中で止めるシンジ。

自分に危害を加えない相手と見るや否や。
とことんまで足元を見てくるこの男は。

そんなシンジのお気楽極楽精神に対して
髪に隠れて見えないところで血管を浮かばせる頭の出した結論とは……


「……それよりこのチョコ、6600円なんだけど。」
「へ?」
「半分以上はアンタの責任よね。」
「いや、それはアスカが……」
「さっきのやってあげるからシンジが半分持つのよ。」
「そんな無茶苦茶な……あ。」

隙を突いてシンジからチョコレートの包みを取り上げる。
そのままの勢いで、くるりと一回転。

「惣流・アスカ・ラングレーよりあなたに。真心と感謝と親愛をこめて。」

ふわりと舞い上がった髪が触れた彼女のその頬は
春の訪れを告げる樹木の花びらととても良く似た色に染まっていた。

                          おすまい。