【LAS人】こんなアスカは大好きだ!9【専用】
167氏
167 名前:1 投稿日:2005/11/25(金) 20:03:01 ID:???
「あんたって、案外女たらしよね」

アスカの呟きに、シンジはぎょっとした。
『あんた』が自分なのは分かるが、そこから『女たらし』なんて言葉にどうやったら繋がるのか。さっぱり分からない。
不可解さに眉根を寄せて、続きを待った。
ソファーの上にあるアスカの背中は、けれど無言でテレビに向かったまま。
諦めて、シンジは手元の音楽雑誌に視線を戻した。

「今日さぁ」
そのタイミングを知っていたように、アスカが口を開いた。
「1年の子達に囲まれてたでしょ。碇せんぱ〜い、なんちゃってさ。どっからああいう声って出るのかしらね」
嫌みったらしくアスカは言った。
しかしシンジには、それほど甘ったるい声をかけられた覚えはい。
よく知らない相手だったし、「こんにちは」の延長みたいな会話をしただけだ。
相手の女生徒の思惑はどうあれ、シンジにとっては。

その声って、加持さんの前に出た時のアスカじゃないか。「女たらし」だって、僕よりはよっぽど加持さんにぴったりだよ。
シンジは、こっそり心の中でだけ反論した。

168 名前:2 投稿日:2005/11/25(金) 20:03:51 ID:???
「あーんたも、鼻の下のばしちゃって、みっともないったら」
「鼻の下なんてのばしてないよ」2度目は、口にも出す。ソファーをよじ登った。
「そもそも、あの時、アスカは中庭にいなかったじゃないか」
「いたわよ」
「いなかったよ。ホントは、あとから誰かに聞かされたんじゃないの?脚色とかされて」
「いた!」
「だって・・・どこから見てたの?」
「・・・たまたま、目に入った」

シンジはまだ納得していなかったが、いたずらを見咎められた子供のようにバツの悪そうなアスカを前にすると、追求の意欲は失せていった。
その気配を察し、アスカが再び攻勢に出てくる。

「でも、女の子侍らせてたのは事実でしょ?」
『女たらし』の次は、『侍らせて』が飛び出した。
「それに一昨日だって、バレーの誰だかに告白されてたじゃない。先週には―――」

なんで知ってるんだろう?
シンジの疑問は復活したが、まくし立てるアスカには止まる気配が無かった。

「ずっと前には、あの眼鏡の山岸なんとか、とか。スパイ女もいた。それにファースト―――」
「待った!? 待ってよ!」
とうとう、たまらずシンジは大声を上げた。「絶対、なんか誤解してるよ。アスカ」
どうどうとアスカを手で制してから、シンジはゆっくりと説明した。

169 名前:3 投稿日:2005/11/25(金) 20:05:17 ID:???
ほとんどの女生徒とは、ただ他愛ない会話をしているだけであること。
時々いる、特別な話をしてくる者も、大抵は「エヴァのパイロット」への興味であること。
中には純粋な告白と呼べるものも無くはないが、『女たらし』などとされるほどの回数では決してないこと。
そして、レイとは、アスカが想像しているような関係ではないこと。

全て聞き終えると、「ふぅん」とアスカは言った。「どーだか」
その青い目に宿る、剣呑な光は衰えていない。

ひょっとして、ひょっとしなくても、まるで納得していないよな。まだ責められるんだろうか。
シンジは冷や汗をかいた。

「・・・大体さ、なんでアスカが僕のことで怒るんだよ」
「あんたがデレデレみっともないと、エヴァのパイロットの格式が下がるからよ」
根本を突いた問いのつもりだった。が、即答されてしまう。
まるで、“最初から用意されていた”ように。

シンジは覚悟を決めた。
もうこうなったら―――さっさと殴られて、それで終わらせてしまおう。

170 名前:4 投稿日:2005/11/25(金) 20:06:19 ID:???
「じゃあさ、アスカは?」
「ん?」
「僕が女たらしだったとして、一番一緒にいるアスカは、僕のこと、どう思ってるの?」

一瞬だけ、アスカの眉が大きく開いた。それから、ふっと表情が消える。唇だけが動いた。


「だいっきらい」


ほら、そうだろ?
シンジは苦笑しながら、衝撃に先んじて目をつぶった。
だから、キスされてもすぐに気づけなかった。

目を開いても、まだ分からない。アスカがいる。温かい。
恐る恐る手を伸ばしたところで、逃げ出すようにアスカが身を引いた。
知っていたに違いないタイミングで。

アスカが呟いた。
「女たらし」

忘れられていたテレビ番組に向き直ったその小さな横顔に釘付けられながら、シンジは思う。
アスカのほうがさ、よっぽど男たらしだ。

【おしまい】